CONTENTS
01 Z世代の新・起業論とは?
02 原田農園のこと
03 語り手・聞き手
04、05 原田農園 原田克明さんの新・起業論
06 原田さんのおすすめの一冊
01
新型コロナウイルスに日本中が翻弄されたここ数年でしたが、動物の世界においても鳥インフルエンザが猛威を振るい、令和4年には広島県でも、各地の養鶏場で飼育されている168万羽もの鶏が殺処分されました(2023.1末時点)。いつの間にか経済性や効率性ばかりを重視する社会のなかで、安全・安心な暮らしの基本であるべき食料の生産までもが機能不全を起こしかけており、持続可能な自然との関わりとはどうあるべきなのか、そんな「問い」が投げかけられている気がします。
Z世代の新・起業論第3弾となる今回のテーマは、「土着」です。自然のリズムに合わせて生きながら仕事をする農家の方に、働くことへの意識や地域とのつながり、そこから生まれる豊かさについて、その考えをお聞きすることで、普段見失っている大切なものに改めて気づくきっかけになれば幸いです。
02
尾道市瀬戸田町の生口島で40年以上続く原田農園は、柑橘の栽培を行う専業農家です。原田充明さんはその3代目にあたり、父・悟さん、母・宣子さんとともに、せとだエコレモンやネーブル、早生みかんなど約20種類の柑橘を育てています。栽培面積は約4ヘクタールもあり、摘果や収穫などの繁忙期には地域の農家と作業を分担することもあるそうですが、それ以外は家族3人での作業です。レモンとみかんは10月ごろからほぼ同時に収穫が始まるため、それを加味しながら栽培計画を調整することで、作業を分散させる工夫もしています。
瀬戸田では昔から柑橘類の栽培が盛んでしたが、特に有名だったのはネーブルです。東京の卸売市場を悟さんが歩いていると、上着に入った“マルセ”のマークを見つけた市場関係者から次々に声をかけられるほどで、当時から質の良い柑橘ができる生産地として知られていました。また今から15年ほど前からは、レモンの産地として全国に知られるようになり、今では「レモンの島」としての存在感が高まっています。
03
原田農園3代目 原田充明さん
生口島出身。関東の大学や国の果樹試験場で農業を学んだあと、県の果樹試験場で12年間勤務。2017年に家族で島へUターンし、柑橘農家の3代目として家族を支えている。
04
原田農園は、生口島で40年続く柑橘農家です。家業を生業として5年目になる原田さん。島を飛び出した時期もあったものの、Uターンして農家の道を歩むことを選んだ背景には、どんな考えや想いがあったのでしょうか。この場所で暮らし、働くことについて伺いました。
柑橘栽培の「おおらかさ」は土地の歴史であり仕事の魅力
原田さんが栽培されている「せとだエコレモン」は、どんなレモンですか
「せとだエコレモン」は、農薬を極力減らして栽培するため皮まで安心して食べられます。輸入レモンの防腐剤に発がん性物質が含まれるとわかった20年ほど前から、『国産品』に光が当たり、瀬戸田のレモンも注目されはじめました。
原田さんが想う柑橘づくりの魅力とはどんなことでしょうか
みかんやレモンといった柑橘は、正直野菜や米ほど神経質にならなくても、美味しく作れることがあります。例えば、今日やる予定の作業が少し遅れたとしても、そこまで大きな影響は出ません。柑橘の特徴でもあるその「おおらかさ」が、私にはちょうど良いと感じます。もちろん、『やるべきことはきちんとやった上で』ですけどね(笑)
「おおらかさ」っていいですね…!
柑橘栽培に歴史ある土地だからこその力かもしれません。人って誰でも切羽詰まるとしんどくなるし、やめたくなっちゃうじゃないですか。この仕事はそういう私たちの弱い部分も、おおらかに受け止めてくれるような気がしています。
離れてみて気づいた柑橘づくりと瀬戸田の魅力
昔から家業を継ぐ気持ちをお持ちでしたか
子ども心になんとなくそう感じてはいましたが、強い意志はありませんでした。当時は毎日忙しく働く両親に対して、「大変なのになぜ農家をやっているのだろう」と疑問を抱いていたからです。中学卒業後は島の閉塞感から逃れるように、岡山の高校へ進学。その後千葉の大学に進学して、落葉果樹(梨・ぶどう)を中心に学びました。学びを深める中で、両親に抱いていた気持ちにプラスの変化が生じます。ちょうどその頃は就職難でもあり、「帰るところがあっていいね」という友人の言葉にハッとして、「知識や技術を身につければ、自分には帰れる場所がある」という気づきにもつながりました。こうして徐々に家業を継ぐことを意識し始めます。
そんな時代を経て今、原田さんが感じる仕事のやりがいはどんなことですか
戻って来た当初から、父のやり方だけでなく自分が積み上げてきた知識も活用して、よりよい柑橘づくりに挑戦したいと考えていました。
以前研修していた果樹試験場で知り合った農家の友人も全国で頑張っています。友人たちから得る最新情報も参考にしながら、自分なりの工夫をし、さらにそれを島のみんなとも共有して栽培に生かしていくことが、何より楽しくやりがいです。
地域の人と協働することについてどうお考えですか
瀬戸田には、農協に出荷する柑橘農家だけでも700軒ほどあります。祖父や父が、農協や地域の人とともに作ってきた栽培技術や協力体制は、これから先もより良い柑橘を作り地域を盛り上げるためにはとても重要です。
その一方で、7年前の農協改革以降は、農協に登録しながらもさまざまな販路の開拓が可能になりました。瀬戸田の中だけでも多様な農業のスタイルがあり、それがうまく調和していると思います。
一度出た地元で、再び暮らすのはどんな気持ちですか
コロナ禍で移動が制限されたとき、私たちの暮らしは以前とあまり変わりませんでした。休日も島内で十分楽しめたのです。日頃から作業のない日や夕飯の後に、農家の友人が操縦する船で釣りに出かけることがあり、これは私の大切な息抜きにもなっています。海と山に囲まれ、そこで働き自由に遊ぶ。こういう暮らしができる瀬戸田は、やっぱりいいところです(笑)。
05
農業を軸にした新しい取り組みで島のファンを増やす
最近は「おてつたび」というサービスにも関わっていらっしゃいますね。そこにはどんな想いがあるのでしょうか
これまで地域で協働して柑橘を作ってきましたが、島の人口が減っていく現状を放置すれば、いずれ人手は不足します。ありがたいことにレモンの需要は伸びており、何か新しい手を考えていたタイミングで「おてつたび」というサービスを知り、試しに参加することにしました。
島外の人を受け入れてみていかがですか
これは、「お手伝い」+「旅」というネーミングのとおり、現地の仕事を手伝って報酬をもらいつつ、休日にはその地域の暮らしや旅を楽しめるサービスです。若い方からの応募が多いと想定していましたが、意外にも幅広い年齢の方が毎回手を挙げてくださいます。柑橘や瀬戸田に興味を持ってくれている方々ばかりなので、仕事がとても丁寧で助かっています。
仕事というより旅を楽しみに来るという感じですね
そうですね。やはり参加者には旅好きな方が多いです。以前の参加者に、世界を旅した経験を聞かせてくれた方がいました。自分が知らない、さまざまな旅の話が聞けるのも、このサービスの良さだと感じます。また、別の方は「もう帰りたくない」というほど瀬戸田を気に入ってくれ、最終日にはお互いに涙しながら見送りました。
手伝いが助かるだけでなく、より密にコミュニケーションが取れるので、島民の私たちが島の魅力を再発見するいい機会になっています。
最後に、原田さんからZ世代のみなさんへメッセージをお願いします。
この地を離れたころは、都会への憧れもありました。けれど一度そこを離れたことで、純粋にこの瀬戸田が好きなんだなという気持ちに気付きました。自分がいいなと思えることは意外と身近にあったりするものです。何も見つからないと悩んだり迷ったりするときは、その場から一度距離をとって見渡してみると、そこにあった魅力に気づけるかもしれませんね。
今回のおさらい
柑橘づくりには「おおらかさ」がある地域と共に生きることで豊かでいられる
離れてみてわかる 身近な良いものを見つけよう
普段とは違う目線は大きな気づきがあって、意識的に立ち止まったり、視点を変えることは大事ですね!
06 原田さんのおすすめの1冊
2大陸25,000kmを自転車で旅した著者による写真随筆集。世界30カ国の風景や現地の人々との交流が記録されています。
農作業中にラジオから流れてきた著者の旅話がきっかけで、原田さんはこの本と出合いました。農業の勉強や経験を積んで帰郷したものの、日本を出てさまざまな経験をしてみたいと考えた時期もあり、この本から刺激を受けたそうです。
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